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2005/09/11

Smile / Brian Wilson

smile このアルバムを知っている人はどのくらいいるのでしょうか?実際に聞いた人はどのくらいいるのでしょうか?私の知る範囲では、話題になっているような気配が全くありません。かと言って、無名のアーティストの知られざるアルバムなのでは、断じてありません。むしろ、ポップス史上最も有名なアルバムなのかも知れません。どういう形で有名なのかと言いますと、完成されずにお蔵入りになったアルバムという意味で、です。それが突如、新録音バージョンとして登場したのは2004年(つまり去年)の事でした。これはある意味、大事件なんですね。

それでは、先ずお蔵入りした「スマイル」の事情から書いていきましょう(と言っても、詳しく書くと、とんでもなく長くなりますので、出来るだけ簡潔を心掛けます)。

ブライアン・ウィルソンは、もちろんビーチ・ボーイズの中心メンバーです。「スマイル」は、名作「ペット・サウンズ」の次のアルバムとして計画されたものです。1966年から1967年にかけての時期になります。その頃、ビーチ・ボーイズの内実は、普通では考えられない状況でした。新しいアルバムの構想や曲作りに関しては、ブライアンは、ヴァン・ダイク・パークスという全く無名の若者をパートナーに起用し(後のパークスは、ロック史上の重要人物なのですが)、2人だけでスタジオに籠もりきりで、他のメンバーもレコード会社側の意向も全く反映されずに、ほとんど暴走状態でした。他のメンバーはメンバーで、ブライアンに代わるメンバーを補充してコンサート活動をしていたのですから、常識では計り知れない状況です。こういう不自然な状況が長く続くはずはありませんでした。

「ペット・サウンズ」も、今でこそ最高傑作と呼ばれていますが、当時は決して高く評価されていた訳ではなく、多くのファンを戸惑わせ、チャートの成績も売り上げも、期待を大きく下回るものでした。他にもいろいろ理由がありますが、ブライアンに対する風当たりが日増しに強くなり、ブライアンは麻薬に手を出したり、精神発作に襲われたりして、とうとう作業を続けられない状態まで追い込まれてしまいます。ブライアンが投げ出してしまった後、残るメンバーが録音途中の素材をかき集めて、何とかでっち上げたのが「スマイリー・スマイル」というアルバムです。この「スマイリー・スマイル」は、「英雄と悪漢」「グッド・ヴァイブレーション」の2曲の不朽の名作を含んではいますが、ブライアンが投げ出した後の作品群との落差があまりにも大きく、アルバムの出来に関しては、散々なものだと言って良いでしょう。

この一連の出来事は、ブライアンにとっても生涯の汚点であり、後々までもトラウマとして引きずっていたようです。その後の紆余曲折は詳しく書きませんが、「グッド・ヴァイブレーション」が大変な名曲であるという評価が高まったり、未発表音源が出たりしているうちに、実は「スマイル」はすごい作品だったのではないかという観測が徐々に高まっていき、いつしか、最も有名な未完成アルバムと言われるようになります。

さて、ブライアンが「スマイル」に再び取り組むのは、2003年になってからの事でした。その手順は、ヴァン・ダイク・パークスを呼び、曲作りを完成させ、現在のバンドでのリハーサルを経て、コンサートで演奏し、満を持して録音に取り掛かるというやり方でした。その本気度が伺い知れます。

作品の出来は、非常に素晴らしいものになっています。もちろん、元々が60年代の作品ですので、時代錯誤と非難する人もいるかも知れない音楽ですが、今の時代ならば逆にすんなりと受け入れられるものだと思います。全体は、3つの部分に分かれていて、それぞれが組曲風の作りになっています。1つめが、「英雄と悪漢」「キャビン・エッセンス」を中心としたものです。イントロとして使われている"Our Prayer"と、この部分のトリを飾る「キャビン・エッセンス」は、かつて「20/20」というアルバムに収録されて、「スマイル」熱のきっかけになった作品です。いくつかの引用も含まれ、曲同士が同じフレーズを持っているなど、凝った作りになっています。2つめは、"Wonderful","Surf's Up"を中心とした部分ですが、この「サーフズ・アップ」という曲も、とんでもないメロディと構成を持った曲で、「スマイル」熱を決定付けた名曲と言って良いでしょう。3つめが、「ヴェジタブル」「ウィンド・チャイム」そして、名曲中の名曲「グッド・ヴァイブレイション」を中心とした部分で、この構成には文句のつけようがありません。とにかく、メロディ・ラインが尋常ではなく、それを一気に聞かせてしまう構成は本当にすごいです。

もし、この作品が当初の予定通りに1967年の春に発売されていたら、その影響でビートルズの「サージェント・ペパー・・」が、全然違った作品になってしまったのではないか、と冗談抜きで思います。

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コメント

 こんばんは!初めてこちらにお邪魔すると思います・・・
「吉田研究所のコラム」という音楽やパロディ等を扱う馬鹿馬鹿しいサイトの管理人で御座います・・・
 何時もこちらを拝見させて頂くのですが、とても面白く勉強になります。
 ブライアン・ウィルソンの関連放送がNHK-BSでこの間放送され、私も「SMILE」をわざわざアナログ盤で買ってしまいました(笑)
 またお邪魔させてもらっても宜しいでしょうか?

投稿: 吉田研究所 | 2005/09/12 19:43

吉田研究所さん、ようこそ。
TBありがとうございます。
早速、拝見させていただきました。で、速攻でTB貼らせていただきました。これからもよろしく。

投稿: 管理人 | 2005/09/12 19:59

ここで『SMiLE』が登場するとは思いませんでした。
今年の1月31日、東京国際フォーラムで聴いてきました。本当に美しい音楽で、これが67年に出ていたら明らかにロック史は変わっていたでしょうね。ポール・マッカートニーは当時からブライアンに影響を受けているそうですし。ロンドンでの『SMiLE』公演ではポールの姿も見えました(写真で見ただけだけど(^_^;))
第1部の前半で聴かせたビーチボーイズのヒット曲をアコギセット&バリバリコーラスで聴かせたところもしびれました。あれをぜひコピーしたいものです。

投稿: RYOSEI | 2005/09/13 13:21

RYOSEIさん、どうもです。

「スマイル」は、当然登場いたします。理由はクドクド書きませんよ(笑)。
長くなるんで削っちゃったんですが、「ブライアンとポール・マッカートニーはその持てる才能は同等であるが、ビーチ・ボーイズにジョン・レノンがいなかった事が、問題点だった」というような事を書いていたんです。
このアルバムは、もっと他人に薦めましょうよ。RYOSEIさんや私も含めて、聞いた人が素直な感想を発信する事によって、記録的ロングセラーになる予感があります。

投稿: 管理人 | 2005/09/13 14:48

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