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2007/02/11

How Dare You / 10cc

10cc4 LP時代はとても好きなアルバムでした。しかし、CDではあんまり聞いていないように思います。理由は、リミックスのおかげで冒頭の変態ドラムがパーカッションの陰に隠れて良く聞こえなくなってしまったから、というある意味どうでも良いような事です。いや、でもあの変態ドラム、特にシンバル・ワークはすごく好きだったんですね。

このアルバムは1975年に発表された10ccの4枚目のアルバム(ベスト・アルバム等を除く)になります。数ある10ccのアルバムの中でも、最高傑作と呼んで差し支えありませんが、奇しくもオリジナル10ccの最後のアルバムでもあります。

ジャケットを担当したのが、ヒプノシスです。ヒプノシスというのは、ピンク・フロイドのジャケット等を担当したチームの名称ですが、彼らが担当したアート・ワークの中でも最大級の傑作と言えると思います。ジャケットの表に2人、裏に2人の人物が電話を掛けている写真がデザインされていますが、これがもう何を話しているのか、そのセリフまで聞こえてきそうな気がする写真です。まるで、映画の1シーンを見ているようです。よくよく見ると、小さな小道具1つ1つまで細かく作りこんだ、本当に手の込んだ表現をしています。内ジャケットの写真は、表に登場した4人とバンドのメンバー4人を交えた数十人が、パーティーよろしく集まっていて、それぞれが別々の相手と電話している、という写真です。ご丁寧に、今到着したばかりのカップル(表の写真にも変に気になる場所に登場しています)や、給仕まで電話中というものです。このアルバムが登場した時は、この写真を見て背筋がゾッとしたものです。しかし、現代の携帯電話の時代になってしまうと、すっかり当たり前の光景になってしまっているのが恐ろしいですね。

さて、こんな素晴らしいジャケットに包まれた、本体の音の方なのですが、さぞかし緻密な音楽かと思われそうですが、これがまた大違いで、恐ろしいほどスカスカのサウンドが展開されています。このスカスカも、音を切り詰めて切り詰めて必要最小限の音にまとめている、というイメージとは全く掛け離れたものです。言葉では表現しにくいのですが、必要な音や、効果的な音は、遠慮会釈も無くバンバンと登場させる。その逆に、効果の無いものや、必要な無い音は、全く出さない。せっかく登場した効果的な音も、役目を果たすと(場所によっては役目を全うする前に)、潔くカットされ二度と出て来ないという形の羅列です。ドラムやベース、リズムギター等まで、ある部分でピタッと止めてしまい、何小節何十小節も後になってまた何気なく出てくるなんて形が日常茶飯事なのです。このアルバムとは別の話で曲名などは覚えていないのですが、あるヴィデオ・クリップで、曲の展開とは関係なくいきなりジェイムス・ブラウン似のおっさんが登場して踊り狂った挙句昏倒してしまい、何事も無かったように先に進んで行くというのを見た事があります。記憶に間違いが無ければ、この作品は10ccを脱退したゴドレー&クレームの2人の製作したヴィデオだったと思うのですが、この感性が全く共通のものと感じています。こういう感じで、仕掛けだらけの継ぎ接ぎのサウンドが展開されます。こんな事が出来るのは、ビートルズを別格とすればオリジナル10cc以外にはあり得ないでしょう。

オリジナル10ccのメンバーは、エリック・スチュアート、グレアム・グールドマン、ケヴィン・ゴドレー、ロル・クレームの4人で、一応担当楽器は順にギター、ベース、ドラムス、キーボード&ギターとなっています。「一応」というのは、4人が4人ともマルチ・プレイヤーで、楽器によっては誰が演っているのか特定するのが極めて難しいからです。オリジナルのギター・アタッチメントとしてある意味有名なギズモを操っているのは主にロルですが、このギズモについては別に書く機会があると思いますのでここではこれ以上触れません。

アルバムは全9曲(ボーナス・トラックは除く)で、全てが2人もしくは3人の共作となっています。この作者のクレジットに注目すると面白い面が見えてきます。よく、10ccはエリック、グレアム組とケヴィン、ロル組の2手に分かれているように言われますし、この指摘は半分は当たっています。しかし、このアルバムが特に言えるのですが単純に2手に分かれているとは言えません。ロルとエリックの共作、グレアムとケヴィンの共作という曲も1曲ずつ収録されています。また、同じ2人の共作でも、名前の順番が入れ替わっている曲もあります。通常ならば、順番が入れ替わるのは、作詞と作曲が入れ替わっている意味に取れるのですが、このグループの場合は作詞と作曲が別人の担当という形は無いと考えています。つまり、最初に名前の出てくるメンバーが曲のアイデアと主要な部分を作詞作曲し、その曲に別のメロディと詩を加えるアイデアを出したメンバーが2人目、さらに加えたメンバーが3人目にクレジットされていると考えるべきです。また、演奏部分のみにアイデアを出しただけのメンバーはクレジットされていないと思われます。つまり、演奏部分についてはほぼ4人が対等に係わっているように聞こえるからです。そういう考え方で、クレジットを見てみると、最初の3曲がロルの作品、最後の2曲がケヴィンの作品、間に挟まった4曲がエリック、グレアム、エリック、グレアムと交互になっている構成になっています。これは、4人がそれぞれバンドの中の自分の役割をはっきりと認識し、その持てる力を最大限に発揮できる形になるように、最初から意図的に並べられた、構成美とでも言えるような形であると判断できます。こうやって仔細に見ていくと、かなり恐ろしいアルバムであるということがじわじわとわかって来ます。

曲ごとの詳細には一切触れませんでしたが、一分の隙もない見事な構成を持った名作アルバムである事はわかっていただけると思います。たった1つの欠点を除いて・・・・です。「びっくり電話」という邦題だけはいけません。全くいただけません。そう思っている人も多いんじゃないですか?

このアルバムの後、ケヴィンとロルの2人がグループを脱退する事件?が起こるのですが、その理由についてはここで言及する事もないでしょう。その後のそれぞれの活躍も見事なのですが、このアルバムと同じ手触りのアルバムだけは2度と出現しなかった事が残念と言えば残念な事です。10ccは、実は今でも現役で活動しています。しかし、オリジナル・メンバーはグレアム・グールドマンの1人だけしか残っていなく、「2.5ccじゃ仕方がない」と、口さがない言い方をする人もいるようです。

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コメント

私はWish You Were Hereとこのアルバムの音づくりが非常に近いものがあると思っていたのですが、ジャケット担当者が同じだとは、初めて教えていただきました。ありがとうございます。CDとアナログの音はまったく別物という感じがしますよね。それにしても素晴らしく洗練されたアルバムだと思います。これだけ深みのある音づくりは、現在の音楽シーンで受け継がれているのでしょうか。残念ながら音楽の進化は70年代で一度終わっているように思えてなりません。

投稿: m.nakamura | 2008/09/21 15:51

m.nakamuraさん、コメントありがとうございます。

ヒプノシスは、かなりいろいろなアーティストのジャケットを担当しています。印象深いところでは、後期のレッド・ツッペリンとかクォーターマス、アラン・パーソンズ・プロジェクトなどがあります。サウンドはいろいろですね。

>70年代で一度終わっている

いいフレーズですね。特に「一度」と言うのがいいです。うっかりどこかに書いちゃいそうです。

投稿: 管理人 | 2008/09/24 15:07

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