Touch Me / The Enid
ものの本によりますと、エニドはクラシックに裏打ちされたシンフォニックなプログレ・バンドである、という事になります。もちろん、これで正解なのですが、この説明で本当にその音楽がわかりますか?という話なのですね。早い話、バッハのパクリのようなメロディとそのバックでメロトロンをグワーと鳴らすようなバンドとは違うのだ、という事はこれだけではわからないと思います。
メンバーは、ツイン・ギター、ツイン・キーボード、ベース、ドラムスの6人組です。意外に珍しい形の編成ですが、それはよく考えてみれば・・・・・という事で、ちょっと見ただけではごくごく普通のロック・バンドの編成に見えます。ドラマーとギタリストの1人がパーカッションも担当するというのが、ちょっとしたポイントでしょう。シンフォニック系によくありがちな、バックにオーケストラを起用するという事は無く、このアルバムでは、ゲストとしてオーボエ奏者が1人だけ参加していて、オーボエとイングリッシュ・ホルンを演奏している他は、全て6人のメンバーの演奏です。別のアルバムではトランペット奏者がゲストになっていたりしています。オーバーダビングの手法はもちろん使っていると思いますが、6人という人数だけで、ライブでほぼ同じように再現出来る、という事に対して一種こだわりが感じられます。
エニドのリーダー格は、ロバート・ジョン・ゴドフリーというキーボード奏者です。この人は初期のバークレー・ジェイムス・ハーヴェスト(BJH)のアルバムでオーケストレーション等を担当していた人で、きちんと正規のクラシックの教育を受けた人です。この人のキーボード奏者特にピアニストとしての実力は、プログレ界で考える限り、キース・エマーソンと並び立つ双璧と呼んで良いでしょう。そして、変にジャズに毒されているキース・エマーソンと比べれば、「正統派」という意味では第一位に来る人だと思います。プログレ界に並居るキーボードの猛者たちを差し置いてという事ですので、かなり点数が高い事がおわかりいただけると思います。彼は、BJHと離れてからソロ・アルバムを製作します。このアルバムはまた別に取り上げなければならないマストアイテムですので詳しくは触れませんが、1974年の発表になります。その後エニドを結成し、ファースト・アルバムの発表は1976年で、このアルバムは、1979年発表の3枚目のアルバムになります。すぐに気が付く事ですが、プログレ界にとっては一番日の当たらなかった時代にデビューし、活動していた事になります。しかし、音楽がしっかりしていたというのが大きな理由なのでしょうが、その冷え込んでいた時代としては意外なほど評判になったアルバムでもあります。
ジャケットはご覧の通り冴えないものですので、その魅力は純粋に音楽そのものの魅力と言って良いでしょう。ポイントは、メロディと構成を含んだ曲作りの部分と、それをどういう形で表現するかというオーケストレーション部分の2つに集約されると思います。どちらにも、クラシックそれもロマン派から近代にかけてのオーケストラ作品を大いに参考にしているものです。他のバンドが好んで取り上げるバッハやベートーヴェンの路線とははっきりと違っています。
まず、オーケストレーションに関する事ですが、2人のキーボードはさまざまの音色を担当しています。ざっと聞くところ、生ピアノ、パイプオルガン(に近い音)、フルートアンサンブル(に近い音)、クラリネット、ストリングス、トランペット、コーラス(合唱)等です。他に、ホルン+チェロのような音色が目立ちますが、これはバンドのサウンドを特徴付けていると思います。なお、オーボエの音はゲストのプレーヤーが生の音を披露していますので、リアルなのは当然の事です。2人はそれぞれを別々に分担しているのではありません。ライブの映像を見たことがあるのですが、キーボードを積み上げたブースの中に2人が陣取り、手の空いている方が次のフレーズを担当するような感じで、どの楽器も2人で交代で弾いているような感じになります。パーカッションは、目立つのは木琴の音で、これは全くクラシックのオーケストラの用法そのままです。他にもティンパニや銅鑼等も使っていて、単なるドラムスとは異なっています。もう一つのポイントはギターの2人で、ギターがどれだけオーケストレーションの中に溶け込めるかという命題を追求しているようなイメージです。ツインリードを取っている時は、あたかもオーケストラのファースト・ヴァイオリンとセカンド・ヴァイオリンのようなイメージですし、管楽器のサウンドの中に入ってしまったり、ハープやチェンバロのような感じの音になっていたりで、一筋縄では行きません。
それよりもポイントが高いのが曲作りそのものの部分です。リーダー格ロバートがほぼ全面的に仕切っていると思いますが、競作のクレジットが多いのは他のメンバーの意見も十分に反映させているという事でしょう。このアルバムでは、LPのA面が「シャレード組曲」というタイトルの4曲で、B面は「アルビオン・フェア」という1曲になっています。
「シャレード組曲」は、「ユーモレスク」、「葬列」、「エレジー」、「ガラヴァント」の4曲からなる組曲です。全体の構成が変化もあり、1つのストーリーのような連続性もあり、ピアノによるバラードタイプの傑作「エレジー」を3曲目、舞曲的な「ガラヴァント」を終曲に持ってくるなど、クラシック近代様式の組曲の形を彷彿させるものになっています。「ユーモレスク」は、変拍子を用いた早い部分を主部、ゆったりした3拍子の部分を中間部とした3部形式が基本ですが、主部の再現の部分では、メロディを主体としたリズム・パターンをバックにして、別なメロディを乗せていくという展開的な手法を用いていますし、最後はコーダ部分になりますが、中間部の旋律を朗々と強奏しています。イメージ的にはエルガーの「威風堂々」第1番みたいに感じます。「エレジー」は、ちょっと聞くとラフマニノフのピアノ協奏曲の叙情的な部分を切り取ってきたような曲で、「ガラヴァント」は、短調で始まったメロディが高揚して長調の新たなメロディを導き出す部分や、中間部にフーガ的な展開を登場させるやり方など見事なものです。
「アルビオン・フェァ」ははっきりと緩急の2つの部分を組み合わせた様式となっています。最初の緩の部分は序奏の位置付けと思いますが、ゆったりしたほとんどビートを感じない曲調で、メロディの断片を少しずつ提示していく中で徐々にメロディが浮かび上がってくる曲です。第2部に入りますと、まずリズミカルなメロディが登場し、少ししてからテンポを落とした叙情的なメロディが提示されます。その後は、この2つの主要メロディを第1主題と第2主題に見立てた展開部分に突入してしまいます。全体を見て、形式を言うならば、展開部と再現部が融合してしまった序奏付きのソナタ形式と呼ぶことが出来ます。コーダ部分では第2主題を高らかに再現提示するという、オーケストラ作品として考えるならば半ば常套手段の手法で幕を閉じる事になります。ソナタ形式とは書きましたが、単一楽章(序奏を別にしないで考えると)の音楽ですので、イメージ的には交響曲ではなく交響詩と呼ぶのが近いと思います。
言葉でざっと書きますと以上のような感じになります。雰囲気は伝わっていますでしょうか?
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コメント
はじめまして。私もエニドのファンです。「THE LOVERS」を弾いてみたいのですが、楽譜って出てるんでしょうかー?
ご存知ないでしょうか…
投稿: hasechan | 2008/12/26 22:31
hasechan、コメントありがとうございます。
反応が遅くて申し訳ありません。
(12月がかなり忙しかったんです)
エニドの楽譜は探した事がありませんので、出ているかどうかわかりません。しかし、やはりあまり期待出来ないかなという感覚はあります。
「THE LOVERS」ならば、耳コピでかなりいけるのではないかと思います。
時間さえあれば・・・・というのが現状なのですが。
投稿: 管理人 | 2009/01/02 02:19