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11/19/2016

大川義行氏の想い出(7)

さて、「ちばの川ものがたり」の翌年、2002年に大川さんから次作の打診がありました。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をミュージカル化するという構想です。正式に依頼があったのが6月頃ではなかったかと思います。ただ、「川ものがたり」の頃から、「銀河鉄道の夜」をそのうちやってみたいんだよね、なんて話がちらちらあった記憶があります。今回の本番は12月で、前年のようなバタバタにはならないタイミングでした。しかしながら、台本が届き始めるまで暫くタイムラグがあり、作曲に取りかかったのは8月くらいだったかと思います。

今回は劇団ルネッサンス・ドラマメイトの公演です。劇団については説明不要とも思ったのですが、良く知らない人がこの記事を見る可能性もありますので、軽く触れておきます。劇団ルネッサンスは大川さんが主宰する劇団で、ドラマメイト、シアターメイト、ミュージカルメイトの3つの部門と、ライズというダンス専門のチームがあります。ドラマメイトは原則高校生以下の子供たちによるチームで、劇団ルネッサンスの根幹をなす部分です。元々は子供たちのための劇団として誕生した劇団ルネッサンスですが、大人になっても続けたい人たちのための受け皿としてシアターメイトとミュージカルメイト、ライズが誕生したという流れがあります。この3チームは、どちらかと言うとプロの養成所とマネージメント事務所を兼ねた形に近い存在と思います。

この「銀河鉄道」の話がなぜ私のところに来たのかが、多少謎です。この時期、劇団ルネッサンスの音楽はほとんど猪俣先生が取り仕切っていました。もちろん、猪俣先生も大川さんの下でずっと活動していた訳ではありませんが、この時はそうではなかったと思います。1つの可能性として、猪俣先生への負担が過重になってしまっていたという事が、考えられます。しかし、それよりも大川さんの一種の感に基づく判断(気まぐれとも見えますが)いう方がありそうな気がいたします。猪俣先生はずっとブロードウェイ・ミュージカルを勉強してきた人ですので、良い意味でもそうでなくてもアメリカンスタイルが染みついた人です。「銀河鉄道の夜」は、ご承知のように架空の国の物語という設定になっていますが、登場人物の名前はジョバンニ、カムパネルラ、ザネリ・・とイタリア風です。しかし、主人公ジョバンニの父親はラッコの漁師ですので、北欧風のシチュエーションになります。さらに言うと星祭はどちらかと言うと仏教系の祭りの名称です(ただし名称だけの話で、物語で描かれる祭りの様子は全然違います)。何れにしろ、アメリカンではないという事だけははっきりしています。大川さんが、そのあたりを勘案して、前年に続いて私の方に振ってみようと思ったとしてもそれほど不自然ではないかと思います。前年のケースはそれしか選択肢が無いような切羽詰まった状況でしたので、そうではない状態でもう一度テストをしてみようと思われたのかも知れません。

今回のサウンドは、アメリカンではなく地中海風あるいはヨーロピアンな感じにしたのですが、案外この辺りまで大川さんの予定の中に入っていたのかも知れません。作曲の進め方は前年と同じような感じです。大川さんは台本を書き進めて、挿入歌の歌詞まで進んだ時にそれまでの分を送って来るというやり方でした。最初のうちは郵送でしたが、途中から私のところのポストに直接入れるというやり方に変わりました。ちなみに、当時の大川さんの事務所は私のところの近くにありましたので、直接持ってきた方がむしろ早い事になります。それはともかく、台本が届く度に1曲ずつ作曲するという形です。最初に台本が届いたときに驚いたのは、タイトルが"Kenji"となっていた事です。なぜこのタイトルになったのかは今となっては意味不明です。台本が届くのは週1のペースに近かったと思いますが、しばらく間が開いた時もあった覚えがあります。作曲をしたら、多くの場合譜面を作成して、シンセサイザー・コンピューターで音まで作って大川さんの事務所もしくは稽古場に届けました。歌の曲は全部で7曲ですが、オープニングは歌無しで、エンディングもダンス音楽、他にもいろいろあり、全部で32曲になります。中には汽車の音だけのトラック(警笛音、発車音、通過音、車内音などを組み合わせました)もありますし、汽車の音と音楽をミックスさせたものもあります。他に新世界交響曲も出てきます。これは宮沢賢治の原作にはっきりと書かれてあるのですが、交響曲のどの部分かは原作には書かれていませんし、考えた事もありませんでした。しかし、ちょっと考えてみれば誰でも気付くはずですが、第2楽章の序奏後のテーマの部分で99%間違いないでしょう。残りの1%は何ですか?と訊かれたらどうしましょうか?間違っても一番有名な第4楽章の冒頭ではありませんね。第1楽章の第1主題や第2主題の可能性は少しだけありそうです。

こんな感じで進んだ"Kenji"ですが(やはり曲の詳しい説明は別に書くつもりですが)かなりのクォーリティを持った作品に仕上がったと思います。自分が音楽を作った舞台を見ていて涙が止まらなくなって困ったなんて経験も滅多にありませんし、その後も大川さんと飲む機会などで、「あれは良かったね」と何度も言い合いましたし、私が関係した作品で、リメークの再演が実現したのは、結果的にはこの作品だけでした。

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