S. F. Sorrow / The Pretty Things
グループの結成は1963年頃、翌年にはデビュー・シングルを発表しています。リーダー格のディック・テイラーは実はストーンズのキース・リチャーズの学友で、キースと共にストーンズを結成した人物です。しかし、ストーンズの口利き役となったアレクシス・コーナーと折り合いが悪くなったためストーンズを脱退し、プリティ・シングスを結成したという流れになります。プリティ・シングスは、デビュー当初は熱狂的な支持を受けましたが、当時としては異常な長髪という事もあり、反体制の異端者というレッテルを貼られ、初代ドラマー、ヴィヴ・プリンスが大変なトラブル・メイカーであった事も重なり、直ぐにグループの活動自体が思うに任せない状態に陥ってしまいました。ちなみに、このヴィヴ・プリンスという人は、ザ・フーの狂気のドラマー、キース・ムーンが自身のキャラクターとステージ・パフォーマンスを作り上げるのに大いに参考にした人物だと言うことです。この問題児は、アルコール中毒の麻薬常習者で、良識ある大人たちとのトラブルだけではなく、レコード会社、ファン、関係者、共演者ともトラブルを起こすという異常人でした。元々一般社会から睨まれるスタイルを持っていたのは仕方がないとしても、本来味方になるべき人々と敵対してしまったというのはもう最悪以外の何ものでもありませんでした。
このアルバムは、そういうゴタゴタを乗り越え、メンバー・チェンジをしてレコード会社も移籍して心機一転を図った4枚目のアルバムで、発表は1969年でした。実は、アルバムの構想自体は1967年には出来ていて、録音も開始されていました。録音があらかた完成してから実際にアルバムが発売されるまで、およそ1年半ほどの時間がかかったのですが、あまりにも今までの路線と違うサウンドだったので、レコード会社側が発売を躊躇してしまったという意味に他なりません。このタイム・ラグは結果的にかなり大きな意味があった事になります。
さて、アルバムの内容ですが、ポイントは1枚のアルバムを1つの連続したストーリーに沿って作り上げた、コンセプト・アルバムで、ロック・オペラと呼んでも差し支えの無いものです。ストーリーは簡単に言えばS.F.ソロウという名の登場人物の孤独な生涯を追ったものです。何故こういう発想が出てきたのか、というのはある意味必然でもあり偶然でもあるでしょう。とにかく時期的にはビートルズの「サージェント・ペパー・・」が出現した直後であり、自分たちも何かをやらなければならないという強い衝動に駆られたというのが一番の理由だったと思います。グループでディスカッションしているうちに(ツァーの移動中の車内での事らしいです)、レコード会社の要求に左右されずにきちんとしたものを作ろうという意思を確認し合ったという事です。そこまで来れば、主要なコンセプトの設定になりますが、この孤独な男という設定は、「サージェント・ペパー・・」の中の名曲「エリナー・リグビー」を意識したものであるのは確かだと思います。アルバムの最後を飾る"Loneliest Person"という曲は、明らかに主人公S.F.ソロウが孤独死をとげ、その墓碑銘を歌詞とした曲ですが、「たとえお前がこの世で最も寂しい人間だとしても、この私ほどの孤独ではないだろう・・」と歌われる歌詞は、墓碑銘というシチュエーションも含めてはっきりと「エリナー・リグビー」に対する挑発的なアンサー・ソングになっていると思います。
最後の曲に至るまでのストーリーは、LP1枚分13曲という事で、直線的と言えば直線的な、それほど複雑なものではありませんが、主人公の唯一の理解者である幼馴染みの恋人が飛行船の事故で焼死するとか、バロン・サタディと名乗るいかがわしい人物に騙されて人生を狂わせるとか、なかなか劇的な展開を見せ、それをたたみ掛ける様に歌い上げていく様は見事と言うしかなく、息もつかせない仕上がりを見せています。又(個人的には嬉しい事ですが)、メロトロンを多用して雰囲気を盛り上げている事とか他にもリコーダー等の小道具を用いてサウンドに色を添えています。このアルバムのレコーディングは、アビー・ロードのスタジオで行われたという事ですが、もちろんそのスタジオをメインに使っていたビートルズとはほとんど隣の部屋で作業していたような状態でしたし、同じ時期にはピンク・フロイドのレコーディング(時期的にはセカンド・アルバム「神秘」ではないかと思います)も行われていたとの事です。そういう状況からの影響や刺激もかなりあったと思います。このアルバムで使われているメロトロンがビートルズの使ったものと同じものではないかと想像するのはちょっと楽しい事です。
さて、先にも書きましたようにこのアルバムの発表はかなり時間的に遅れました。その間にザ・フーの「トミー」が発表されてしまいました。もちろん「トミー」はロック・バンドが製作したロック・オペラの最初の作品とされています。プリティ・シングスにとりましてはグズグズしているうちに先を越されてしまったという形になります。ザ・フーとプリティ・シングスは(ビートルズやストーンズも同様ですが)、昔からのバンド仲間としてメンバー間の交流もあった訳で、「トミー」にちゃっかりとアイデアを取られてしまったという印象は免れません。特にバロン・サタディの登場するくだりは、トミーに群がるいかがわしい人物たちの描写と著しい共通点を感じます。プリティ・シングスがこの後ハード路線に方向転換して行った最大の要因がこのあたりにあったと考えられます。ハード時代の音楽も悪くはないのですが、ツェッペリンや(ハードとしての)ディープ・パープルなどが登場した後からですので、ただの後追いのように思われてしまい、結果として未だに正当に評価されていないのが、このバンドにとって不運だったと思います。
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コメント
今更ではありますが...エリナ リグビーは、リボルバー収録ではないかと...
投稿: | 2013/12/11 07:38
オリジナル盤の発売はトミーより早い
投稿: | 2022/01/22 02:29